AIコーディング時代における新人・若手エンジニアの育て方——「使わせない」ではなく「理解を確認する」という選択
はじめに
前回の記事で、AIコーディングツールによってエンジニアの開発速度が劇的に変わったことを書きました。
では、その恩恵を受けるのは経験豊富なエンジニアだけでしょうか?
答えはNoです。新人・若手エンジニアであっても、AIを使えばそれなりのコードを書けてしまう時代が、もう来ています。
この事実が、現場に新しい問いを突きつけています。
「新人にAIコーディングツールを使わせるべきか、使わせないべきか」
今回は、マネジメント側の視点も含めて、この問いについて考えてみます。
AIの前では、経験の差が見えにくくなる
AIコーディングツールの恐ろしいところは、使う人の技術力に関係なく、一定以上の品質のコードが出てくることです。
10年目のベテランが書いたコードと、入社1年目の新人がAIに書かせたコード。見た目の品質だけなら、大差がないケースも珍しくありません。
むしろ、AIが生成するコードは変数名やコメントが丁寧で、一見すると「よくできたコード」に見えることが多い。これ自体は素晴らしいことですが、ここに落とし穴があります。
地力のないままAIに任せることの危険性
新人がAIの出力をそのまま採用し続けると、「なぜこのコードがこう書かれているのか」を理解しないまま開発が進むことになります。
これが特に問題になるのは、以下のような場面です。
セキュリティリスクの見落とし
AIが生成したコードにSQLインジェクションやXSSの脆弱性が含まれていたとき、それに気づけるかどうかは技術力次第です。AIは多くの場合セキュアなコードを書きますが、100%ではありません。コンテキストによっては不適切な実装をすることもあります。
潜在的なバグの発見
表面上は動くけれど、特定の条件下で不具合を起こすコード。エッジケースに気づけるかどうかは、その言語やフレームワークの仕組みを理解しているかに大きく依存します。
障害時の対応力
本番環境で障害が起きたとき、AIに「直して」と言っている余裕はありません。ログを読み、原因を特定し、修正する力——これは自分の中に技術的な基盤がなければ発揮できません。
こうしたリスクがあるからこそ、新人にはAIを使わせないという判断をする企業も少なからず存在します。
「使わせない」気持ちはわかる。でも、使わせていいと思う
正直なところ、新人にAIを使わせたくない気持ちはよくわかります。
自分の手でコードを書き、エラーに苦しみ、デバッグを繰り返す——その過程でしか身につかない力は確かにあります。自分自身もそうやって育ってきました。
しかし、私は新人もAIを使っていいと考えています。
なぜなら、エンジニアの学びの本質は昔から変わっていないと思うからです。
先輩のコードを読んで学んだように、AIのコードから学べばいい
思い返してみてください。
新人時代、先輩が書いたコードを読んで「こう書くのか」と学んだ経験はありませんか?
- 「この設計パターン、こう使うんだ」
- 「エラーハンドリング、こんなに丁寧にやるのか」
- 「この書き方のほうがパフォーマンスがいいのか」
先輩のコードをお手本として読み、理解し、自分のものにする。これがこれまでのエンジニアの成長プロセスでした。
今の時代、その「先輩のコード」がAIの出力に置き換わっただけだと考えてみてはどうでしょうか。
AIは質の高いコードを生成します。それを「便利だからそのまま使う」のではなく、「なぜこう書かれているのかを理解する教材」として活用する。そうすれば、AIは新人にとって最高の学習パートナーになり得ます。
問題は新人ではなく、確認する側の姿勢にある
とはいえ、現実はそう簡単ではありません。
AIが質の高いコードを書いてくれるがゆえに、「これでいいや」と思ってしまう新人が多いのも事実でしょう。動くコードが目の前にあるのに、わざわざ中身を理解しようとするモチベーションを保つのは難しい。
だからこそ、今問われているのは新人の姿勢ではなく、先輩・上司の側の姿勢だと思います。
具体的には、こういった問いかけです。
- 「このコード、なぜこの実装にしたの?」
- 「ここでバリデーションを入れている理由は?」
- 「この処理が失敗したら、どうなる?」
AIが書いたコードであっても、それを自分の言葉で説明できるかどうか。ここを確認するのが、先輩・上司の役割です。
新人が「AIが書いたので……」と答えたなら、そこが教育のチャンスです。一緒にコードを読み、なぜそう書かれているのかを紐解いていく。
これが現代のOJTになる
従来のOJT(On-the-Job Training)では、先輩が書いたコードをレビューしたり、ペアプログラミングをしたりすることで、新人は技術を吸収してきました。
AIコーディング時代のOJTは、「AIが書いたコードを新人が理解しているかを確認し、理解を深めさせる」というプロセスに変わっていくのではないでしょうか。
| 従来のOJT | これからのOJT |
|---|---|
| 先輩のコードを読んで学ぶ | AIのコードを読んで学ぶ |
| 先輩がコードレビューで指摘する | 先輩がAI出力の理解度を確認する |
| 「自分で書いてみろ」 | 「AIが書いたこのコード、説明してみろ」 |
教材がAIに変わっただけで、「理解しているかを確認する」という教育の本質は変わらないのです。
まとめ
- AIを使えば、新人でもそれなりのコードが書ける時代になった。
- しかし、技術力なしにAIに依存するのは危険。 セキュリティや障害対応など、地力が問われる場面は多い。
- 「新人にAIを使わせない」のではなく、「AIのコードを理解しているかを確認する」ほうが建設的。
- 先輩のコードで学んだように、AIのコードから学べばいい。 教材が変わっただけで、学びの本質は同じ。
- 問われているのは、新人の姿勢ではなく、確認する側の姿勢。 これが現代のOJTの形になる。
AIコーディングツールの登場は、エンジニア教育のあり方も変えていきます。「使わせない」という守りの姿勢ではなく、「どう使わせるか」を考えることが、これからの先輩・上司に求められる力なのかもしれません。